メープルスイーツコンテスト受賞者を巡る【1.野口ゆきえさん:後編】
インタビュー後編は、2024年3月に麻布台ヒルズに開業した「ジャヌ東京」でのお仕事にフォーカスしてお話を伺いました。
▶️インタビュー前編(これまでのご経歴、コンテスト当時のお話)もぜひご覧ください。
誰もが同じように楽しめる空間を目指して…
ー ’Green & Wellness’というテーマを掲げる麻布台ヒルズの中心に位置する「ジャヌ東京」では、メニューにもヴィーガンやグルテンフリー、プラントベースのものを揃えていらっしゃいます。そういった分野の開発に取り組んだのは、こちらに移られてからでしょうか?
ホテルで働いていると、アフタヌーンティーなどで「ヴィーガンなんですけど対応できますか?」といったお問合せをいただくことがあります。
これまでのホテルでも可能な範囲ではご対応をさせていただいて、フルーツの盛り合わせですとか、アガーで作ったジュレといったものをご用意するのですが、おひとりだけ皆さんと違うメニューを召し上がることになってしまって…
そんな経験もあったので、「ジャヌ東京」のペストリーシェフに就任する時に、ウェルネスに力を入れているこのホテルで、お客様がみんなそろって美味しいものを食べていただけるという形を実現したいと思ったんです。
現在、特にショップの方(1Fのジャヌ パティスリー)でヴィーガンの方にも選んでいただけるメニューをご用意しています。
ー 心も体も満たされる…そんなウェルネスな体験を目指されているのですね。
ヴィーガンやグルテンフリーのメニュー開発では、どうしても使用できる素材の制約が出てきますが、そのあたりの難しさは感じられますか?
ヴィーガンのスイーツは”飲み込めない”とか”ぼそぼそしている”といったイメージを持たれている方も多いと思いますが、今ヴィーガン対応のチョコレートや卵の代替品にすごく美味しいものが出てきているんですよ。正直、言われなければ分からないくらい。
使える材料が充実してきて、以前と比べて美味しいものを作れる環境になってきているので、そのことを皆さんに知ってほしいですね。ヴィーガンの方でなくても美味しい!と感じていただけるものを目指しています。
アフタヌーンティーで「はちみつ」の世界を表現
ー 5月、6月は「はちみつ」をテーマにしたアフタヌーンティーをご提供されていました。実は、クインビーガーデンのはちみつもたくさん使っていただいているんです!このテーマを選ばれたきっかけを教えていただけますか?
まず「はちみつの旬っていつだろう」と考えた時に、ミツバチは春に花の蜜をたくさん集めるので、この時期がちょうど旬になるのではないかと。
ミツバチはサステイナブルの分野でもフォーカスされていますし、麻布台ヒルズのコンセプトである”Green & Wellness”とも合うので、その方向で進めることになりました。
ー はちみつは昔から召し上がっていますか?
実家にいたころ、庭にあるミカンの木の下にミツバチの巣箱が置いてあったんです。隣の人が飼っていたんですよ。それで、はちみつが採れたら分けてくれたりして、比較的身近な存在でしたね。
ー アフタヌーンティーのメニューにはなんと、7種類ものはちみつが使われているんです。開発の際にはさまざまなはちみつを取り寄せてテイスティングを?
そうですね。はちみつって花の種類によって味が全然違いますよね。まずはちみつを味見してみて、この味はこの素材に合うだろうというのを探っていきました。
メニューの中にメロンとシナノキのはちみつを合わせたショートケーキがあるんですが、それが相性の良さで1番驚いた組み合わせでしたね。
北海道のシナノキのはちみつは結構香りが強めなんですが、味わった瞬間に「絶対メロンに合う!」と感じました。
シナノキのはちみつ自体食べたのが初めてだったので、とても新鮮な発見でした。
ー マヌカハニーを使った珍しいメニューもありますね。素材の合わせ方には何かコツはあるのですか?
マヌカはイタリア産シトラスはちみつと合わせて、フロマージュブランのクリームに使っています。
はちみつと素材の組み合わせは、味わった印象で頭の中に直感的にインスピレーションが浮かんでくるので…結構勢いみたいなところがありますね。
ー お客様の反応はいかがでしたか?
非常に反応が良かったです!はちみつって皆さんとても興味があるみたいで、このアフタヌーンティーも5月の時点で6月末の方まで予約が埋まっていました。
来てくださったお客様からも「いろいろなはちみつの味を知れて面白かったです」「こんなに味が違うと思わなかった」というお声もいただきました。
ー ケーキを食べる時に、どの国の何のはちみつが使われているのか、違いを感じながらお召し上がりいただくと、食の体験としてひとつランクアップする感じがしますね!
ヴィーガンスイーツにおけるメープルの可能性
ー 現在ご提供されているメニューでは、メープルシロップやメープルシュガーは使用されていますか?
1Fのパティスリーでヴィーガンのパフェを出していて、そのアイスクリームにメープルシロップを使っています。
バナナ・ココナッツミルク・メープルシロップを合わせたアイスです。
転化糖のような感じでメープルを入れるとすごく安定してくれて、ボソつかずなめらかな仕上がりになります。あやしい安定剤でも入っているんじゃないかってくらい(笑)。硬さもカチカチにならなくてちょうど良いです。
ー 使える素材が限られるヴィーガンスイーツの分野で、メープルは機能的な面でも貢献しているのですね。
風味の面では、メープルと特に合うと思われる食材はありますか?
味や香りの相性では、バナナと良く合うと思いますね。
メープルシロップはコクがあるので、ヴィーガンのメニュー作りに役立っています。
ー これからもぜひご活用いただけるとうれしいです!差し支えなければ、今後の展望をお伺いできますか?
今はアンバーのグレードを使っていますが、パフェは3ヶ月ごとに変えているので、秋は別のグレードにしてみようか…とか、いろいろ試しながらやっていきたいと思っています。
秋のアフタヌーンティーにもメープルを使ったものを出そうと考えているんですよ!
インタビュー / 三好 晶、近藤 智美、文 / 近藤 智美、写真 / 角南 美紗貴